自宅などを夫婦で共有している場合、委託者を2人とする1つの信託契約で財産管理を担うことは可能です。
夫婦のどちらかが先に亡くなった場合、死亡した側が持っていた受益権の持分を、生存している配偶者が単独で持つことになります。
そして、夫婦ともに亡くなった場合には信託を終了させ、残余財産は子供に帰属するという信託契約を結んでおくことができます。
夫婦で1つの信託契約、1つの信託受益権という財産を持ち合う場合、夫婦間で受益権割合を定める必要があります。一般的には、不動産の共有持分比率をそのまま受益権割合に反映させることになりますので、税務上の課税をされることはないと思われます。
ただし、夫婦それぞれが持つ預貯金も共有不動産とセットで信託財産とする場合は、注意が必要です。
受益権割合の比率に応じた金銭の額を信託財産に入れないと、受益権割合と信託財産として預けた預貯金の比率が異なることになり、その差額分については無償で譲ったとして、贈与税の課税対象にされてしまう可能性があります。
また、複数の不動産を夫婦で共有している場合、それぞれの不動産によって共有持分比率が異なるのであれば、1つの信託契約でまとめない方が賢明です。前述の預貯金の信託と同様、その財産評価の差額分については贈与税の課税対象になりえます。
このように、夫婦共有の不動産がある場合の信託契約は、安易に1つの信託契約にまとめるのではなく、委託者ごと(夫、妻)に分け、別々の信託契約書をつくるという選択肢を検討することをお勧めいたします。
1978年兵庫県高砂市生まれ、岡山大学法学部卒業。「法務・会計 梅谷事務所」「はりま家族信託相談室」代表司法書士および家族信託専門士。2016年より福祉・医療関係者向けに「成年後見人制度」や法律に関する実務について研修を行う「梅塾 care&law~」を定期的に自主開催するなど、数多くのセミナー講師を務める。明治42年創業以来受け継いできた「地元での信用・信頼、誠実な仕事」をモットーに、日々、法務の現場で活躍する。