◆通常の贈与
委託者である親が元気なうちは、その親の意思に基づいて贈与をすることはもちろん可能です。それは、信託という仕組みを使わなくても、通常通り贈与を行えば済みます。
例えば、贈与契約書を作成し、親から受贈者である子や孫へ口座間送金するなど。
※税務上の対策をしなければ否認されてしまいますので注意は必要です。
◆判断力低下後の贈与
上記に対して、「委託者である親の判断力が低下した後でも、子や孫たちに暦年贈与を続けることは可能ですか?」という質問を受けることがあります。
私の場合「理論上は可能ですが、実務で行うのはやめたほうが良いです」とお答えしています。
大きな理由は次の2つです。
①贈与には贈与者の意思表示が不可欠だから
贈与をする場合、贈与者の意思表示が不可欠です。
判断力が低下し、その意思表示が出来なくなれば贈与が出来なくなると考えるのが大前提です。信託を学ばれていれば「その贈与の意思を受託者に託せばいいじゃないか」という考えが出てくるかもしれません。
こういった内容を信託契約の中に”書くこと”自体はそれ程難しいことではありません。
しかし、贈与税との関係で実務上はリスクが高いです。
②租税回避行為と定期贈与のリスクが高いから
信託契約の中に「贈与の意思表示をすべて受託者に託す」と記載することも考えられます。
しかし、包括的に贈与の権限を受託者に与えてしまった場合、税務署から租税回避行為と指摘されるリスクがあります。
また、定期贈与とみなされる恐れもあります。
上記のような理由から、現時点では、私は定期贈与を信託の中に組み込むことはおすすめしていません。
◆余談(扶養義務に基づく財産給付)
そうは言っても、委託者の財産を生活の拠り所にしている家族がいる場合があります。例えば、夫の年金で生活している妻、親の収入で生活している子、など。
この場合、扶養家族に対して生活費を渡す行為は、扶養義務の一環と考えることが可能と思われます。
1978年兵庫県高砂市生まれ、岡山大学法学部卒業。「法務・会計 梅谷事務所」「はりま家族信託相談室」代表司法書士および家族信託専門士。2016年より福祉・医療関係者向けに「成年後見人制度」や法律に関する実務について研修を行う「梅塾 care&law~」を定期的に自主開催するなど、数多くのセミナー講師を務める。明治42年創業以来受け継いできた「地元での信用・信頼、誠実な仕事」をモットーに、日々、法務の現場で活躍する。