家族信託は便利な制度ですが、気を付けなければならないデメリットも存在します。
家族信託では、委託者が信託したい財産(信託財産)と、委託者自身が所有する財産(固有財産)を決めておくことが出来ます。
たとえば、この2つの財産に不動産が含まれている場合、それぞれの不動産から発生する利益や損失を合算して計算することができません(損益通算不可と呼びます)。損失の繰り越しは物件単位ではなく、信託契約ごとの計算になるからです。
◆例◆
ある委託者が、ビルB(信託財産)と、アパートA(固有財産)を所有しているとします。
アパートA(固有財産)は、順調に収益を伸ばし600万円の黒字、
ビルB(信託財産)については、大規模修繕したため、マイナス300万円の赤字。
この場合、プラス600万円とマイナス300万円とを損益通算した300万円分の不動産所得として課税にはならず、アパートA(固有財産)600万円の利益に対して課税されます。
信託契約を専門職の関与抜きで有効に結ぶのは困難、かつハイリスクであり、お勧めできません。したがって、専門職に依頼する手間やコストを必要経費として最初に織り込んでおく必要があります。
メリットの点でも言及していますが、信託制度を利用しても、相続税や贈与税の算出基準となる財産額そのものは変動しません。つまり、節税対策としてこの制度を利用することはできません。
1978年兵庫県高砂市生まれ、岡山大学法学部卒業。「法務・会計 梅谷事務所」「はりま家族信託相談室」代表司法書士および家族信託専門士。2016年より福祉・医療関係者向けに「成年後見人制度」や法律に関する実務について研修を行う「梅塾 care&law~」を定期的に自主開催するなど、数多くのセミナー講師を務める。明治42年創業以来受け継いできた「地元での信用・信頼、誠実な仕事」をモットーに、日々、法務の現場で活躍する。